読書メモ 一投に賭ける

タイトル: 一投に賭ける
著者: 上原善広
日付: 2022-10-06

タバコは一日数箱吸い、朝方まで酒を飲んで出場した大会では優勝する規格外のやり投げ選手、溝口和洋を一人称文体で紐解くノンフィクション。

この頃にあった日本選手権の前夜、私はナンパに成功して朝方まで女といたが、さすがに翌日は二日酔いと、いつもと違う動きをしたので疲れていた。それでも八〇m台を投げて優勝したが、これは何か不意のことが試合前に起こっても、対処できるようにと考えて、意図的にしていたことだ。

とか

実は、酒はあまり好きではない。ただ練習のストレス発散、酔っぱらうために吞むだけで、普段は吞まなくても平気だ。しかし吞むときは徹底的に吞む。酒もべつに何でもいい。酒量については正確に量ったことはないが、ウィスキーならボトル二本は大丈夫だ。

など、色々突っ込みたくなるエピソードが目立つが、やり投げに取り組む姿勢は本物である。欧米人と比べて、体格では不利な日本人が成果記録を残すための試行錯誤の連続はプロフェッショナルでしかない。
彼のやり投げ記録(86m60)は30年以上に渡り、日本記録をキープしている。 スピードを活かした投げ方こそが日本人に合った理想の投げ方とされていた当時、全ての常識を疑い、練習メニュー、フォーム、二日酔いを用いた予行練習(?)など、全てを自分自身で考え抜いたからこその結果かもしれない。
彼が考え抜いて特注した左右非対称のミズノ製スパイクは「ミゾグチ」と世界で呼ばれているらしい。

知り合いに話したくなるような破天荒なエピソードも含め、溝口和洋というアスリートを知ることができて満足度の高い本だった。十数年に及ぶ、営利を無視した著者の取材にも感謝したい。